インタビュー企画第二弾。今回は作曲家の冨田悠暉(とみたはるき)先生にお話を伺ってまいりました。先生は独自のロクリアセオリーを確立し、独自の作風を貫く若手作曲家の一人です。また、他方面ではトイドラ名義で活動なさっています。私、小田桐の中学高校の先輩でもある彼から大正琴やロクリアセオリーについて非常に興味深い内容が聞き出せました。

小田桐「今日はよろしくお願いします。早速ですが、大正琴という楽器についてご存知でしたでしょうか?」

冨田「こちらこそお願いします。そうですね。小田桐氏にその名前を聞くまでは、存在も知りませんでしたね。初めて音を聞いた時は、特徴的で我の強い音だなと思いました。ところが、実際に使ってみると以外にもピアノなど他の楽器との相性がいいことも分かってきました。面白い楽器だと思います。」

小「先生は、独自のロクリアセオリー、通称TLT(トイドラ式ロクリアンセオリー)を開発されましたが、具体的にそれはどういったものでしょうか?」

冨「教会旋法はどれをとっても魅力的な音階ですが、その中に『ロクリア旋法』という異端の旋法があるということは以前から知っていました。自分はどうも、こういう異端にどこか惹かれるところがあるようで、気にはなっていたのですが、最初は本格的に使おうと思うには至りませんでしたね。ただ、作曲を学ぶ過程で、木下牧子先生や小山清茂先生、ロクリアン正岡先生などの作品を知り、それらの発見が結びついた瞬間に『ロクリア旋法の使い方』というものが啓示のように見えてきました。それは簡単に言ってしまえば、従来の機能和声とは大きく異なる、全く新しいものです。結果、ロクリア旋法は使えない旋法ではない、ということが証明できたと思っています。」

小「そのセオリーをふんだんに使用した大正琴とピアノのための曲『ロクリアン・ファンタジア』が今回のCDで収録されることになっています。それについて解説をお願いします。」

冨「この曲は4つの小曲から成っていますが、それぞれの曲にトイドラ・ロクリアン・セオリー(TLT)における基本的なスケールが1つずつ割り当てられています。TLTの響きは、どこかフワフワしていて現実味のない、夢想のような味わいが特徴的だと感じていますが、この曲にはその味がよく出ていると思います。割にポップで聞きやすい響きになるよう工夫もしました。ぜひご期待ください。」

小「実は先生は私の中学高校の先輩なわけですが、印象深いお互いにまつわる思い出はあったりしますか?くれぐれも穏健な話で頼みますね(笑)」

冨「穏健なやつねえ(笑)。そういえば、小田桐氏とはもう7年の付き合いになるのか…… 時の流れを感じて空恐ろしくなりますが、彼は中学生の頃から根っこは全然変わっていませんね。当時から活発な自信家で、行動力に満ち溢れた奴だったように思います。その分悪ガキでもあったわけですが(笑)。それに比べて、当時の僕は彼よりずっと引っ込み思案でしたし、優等生ぶってるところがあったので、いつも彼の起こす騒動を見ては面白がっていたばかりでした(笑)。エピソードとしては、高校生の頃の合唱祭で、僕ら2人のクラスがそれぞれ小田桐、トイドラの自作曲で本番に挑んだ時のことが印象的ですね。結果は小田桐の圧勝でしたが……(笑)。その年の合唱祭は全部門で小田桐のクラスが金賞を総ナメして、恐らく史上初の快挙だったと思います。それを見ていて、僕は不思議と全然悔しくなかったんですよね。それどころか、多分僕が1番熱狂していたんじゃないでしょうか。表彰式が終わるやいなや、小田桐と熱い抱擁を交わしてしまいましたね(笑)。彼はそういうカリスマ性に満ちた奴ですが、今回の演奏会でも彼の良さが存分に味わえることを期待しています。」

小「う~ん、穏健だったのかな(笑)。さて、最後の質問になります。先生の主催する『名大作曲同好会』とは来年の夏に合同で演奏会を開催する予定ですが、その『名作同』について教えてください。」

冨「『名大作曲同好会』は、2017年夏に僕の手によって誕生した、名古屋大学”非公認”の作曲サークルです。関係ないですが、非公認サークルって面白いですよね。だって、ただサークルを自称している人たちが集まっているだけの概念じゃないですか(笑)。自分の所属している名古屋大学にも、当然公認の音楽系サークルや作曲サークルもあるにはあるのですが、どうも自分の意識の中にあるようなボーダーフリーな作曲サークルは無くて……。そこで、ある意味仕方なく「名作同」を立ち上げたわけです。結果、立ち上げて良かったと思います。会員は少ないですが、彼らの作った曲を聞くと『ああ、こんな曲もあるのか』と感心させられるようなものが多いんですよね。イベントの企画もしている訳ですが、10月の自主公演は盛況に終わりましたし、12月には椙山女学園大学様からの委嘱もいただきました。今後もCD企画やコンサート企画を抱えており、忙しくなっています。なかなか面白い会になってきました。今後の伸びしろが、僕自身楽しみです。」

小「先生、今日はどうもありがとうございました。」

冨「こちらこそありがとうございました。」

冨田悠暉

平成10年9月17日生。現在名古屋大学文学部2年生。名大作曲同好会会長。トイドラ名義でも活動する新鋭の若手作曲家。

〈トイドラ年表〉
小4:リコーダーの授業中、何となく自分に音楽の才があることを予感する。
中1:中学生になり、吹奏楽部に入る。
中2:実に拙いながらも作編曲を始める。当時中1の小田桐氏と初対面し、衝撃を受ける。
高1:愛知県立横須賀高校に進学し、吹奏楽部に入る。
高2:合唱コンクールにて自作曲を初演。
高3:弘前桜の園作曲コンクール高校部門にて4位、入賞を逃す。作曲に行き詰まるようになる。
大1:進学を機に、榊山大亮先生に師事し大きく開花。吹奏楽部に入るもすぐに辞め、名大作曲同好会を立ち上げる。
大2:音楽的探求の中で、ロクリア旋法の可能性に気づき「トイドラ式ロクリア旋法和声(TLT)」を提唱する。名大作曲同好会の活動を活発化させ、コンサートなどを企画する。酒が飲めるようになり呑んだくれる。

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トイドラ:https://twitter.com/toidora
名作同:https://twitter.com/nu_composers